夏草の賦(上) 司馬遼太郎 文春文庫
p.68 「大将は逃げぬもの」という原則を、元親は忠実にまもっただけであった。
p.79 「織田殿のいくさは勝つべくして勝つといういくさでありまするそうで」(中略)「そうであるべきだ。いくさはばくちではない」といった。勝つべくするためにはそのためにあらゆる準備と手段の手をうたねばならない。「おれは単にいくさをしていた」
p.93 元親は、臆病者こそ知者の証拠であり、臆病こそ知恵のもとである、といった。知恵がある者でなければ臆病にならない、とも元親は言う。(中略)なるほど武将にとって勇気・豪胆さは第一に必要である。しかし元親に言わせれば、勇気などは、天性のものではない。臆病者が、自分自身を練り、言い聞かせ、知恵を持って自らを鼓舞することによってかろうじて得られるもので、いわば後天的なものである、という。
p.181 「よく知る者は、よく謀ることができる」と考えている元親はその点で群を抜いてその収集に熱心だったといえるであろう。
p.199 最高の謀略とは人々の正義感を刺戟しそれを結集することであろう。
p.241 物事は両面から見る。それでは平凡な答えが出るに過ぎず、知恵は湧いてこない。いまひとつ、とんでもない角度 ― つまり点の一角から見下ろすか、虚空の一転を設定してそこから見下ろすか、どちらかしてみれば問題はずいぶんかわってくる。
p.264 欲の深い人間ほど、だまされやすい。しかしそういう男ほど、ほかに別な欲の刺戟材料があればそちらへと鞍替えし、先約を裏切ってしまう。
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